離婚原因の1つとして民法で定められている悪意の遺棄ですが、そのままの意味で読むと、「悪い心を持って配偶者をどこかに捨てて置き去りにすること」となります。しかし、このようなことは原則として起こらないので、悪意の遺棄で離婚をするということはほとんどないはずです。
実際には、 悪意の遺棄 というのは、一般的な人が考える意味とはかなり違う意味合いで解釈されているようです。
意外と難しい?悪意の遺棄とは
悪意の遺棄は法律用語だった
善意・悪意という言葉は、良い心、悪い心という意味になりますが、法律用語での善意・悪意はまったく別の意味になります。法律用語では、善意は「知らないこと」、悪意は「知っていること」を意味します。
法律問題で、よく「善意の第三者」という言葉が使われますが、これは事情を知らない第三者という意味です。例えば、あなたの家に泥棒が入って、大切な時計が盗まれたとします。盗まれた時計が事情を知らない第三者に売られてしまいました。
ここで、「盗まれた時計である」ということを知っていた第三者は「悪意の第三者」となり、時計を取り戻すことができます。しかし、事情を知らない「善意の第三者」からは、強制的に取り戻すことはできないので、交渉をして買い戻すことになるでしょう。
離婚問題における悪意とは、夫婦関係の破綻をもくろんでいた場合や、破綻してもかまわないと考えていた場合などがこれにあたります。
次に、遺棄という言葉は、文字通りの意味でとるなら、捨てて置き去りにすることですが、ここではただ単に「ほうっておく」ということを指すようです。
つまりは、「そうなることを知りながら放っておく」ことを悪意の遺棄と言います。具体的には、生活費を妻にわたさない、家を出て別の女性と暮らしている、理由もなく別居をする、健康なのに働こうとしないといったことが悪意の遺棄にあたります。
正当な理由があれば悪意の遺棄ではない
仕事の都合で単身赴任をしているとか、夫のDVを逃れるための別居、妻の不倫に対して怒って夫が家を出て行ったような場合には、正当な理由があると言えるので悪意の遺棄にはあたりません。病気が原因で働くことができない場合も同様です。
また、正当な理由がなく別居したからといって、ただちに悪意の意味が認められるわけでもありません。判例には、悪意の遺棄が認められるためには別居をしてから5年程度が経過していることが必要としたものがあります。
悪意の遺棄は、別居だけで認められることは少ないようです。別居に加えて、夫婦の相互扶助義務に違反をしていると、認められやすくなるようです。例えば、別居をしていて、なおかつ生活費を渡さないといったケースです。
悪意の遺棄があると離婚原因となる
悪意の遺棄は離婚原因になります。すなわち、配偶者が反対をしていても、悪意の遺棄をされた側は一方的に離婚を言い渡すことができます。ここで注意が必要なのが、悪意の遺棄をした側から離婚を申し出ることはできないということです。
もしもあなたが正当な理由もなく家を出て行ったのなら、悪意の遺棄をした側にあたりますので、あなたのほうから離婚を言い渡すことはできないということです。もちろん、DVや不倫といった理由があったのなら正当な理由が認められます。
悪意を証明することは難しい?
夫が勝手に家を出て行ったようなケースでは、遺棄の事実が認められます。ここで、必ずしも夫が悪意だったことを証明する必要はなく、常識的、一般的な観点から悪意であることが推測されるなら、悪意の遺棄は認められることになります。
しかし、夫が自分の正当性を主張しだすと面倒なことになります。例えば、妻に浮気があったとか、やむを得ない事情だったなどと言い訳をするケースです。
このような場合でも、そこにいたった経緯などを説明し、相手がなにもしなかったことを訴えることで、悪意の遺棄が認められることもあります。
争いになりそうだったら法テラスや弁護士に相談をすることをおすすめします。
まとめ
意外と難しい?悪意の遺棄とは
悪意の遺棄は法律用語だった
正当な理由があれば悪意の遺棄ではない
悪意の遺棄があると離婚原因となる
悪意を証明することは難しい?