「算定表は絶対?婚姻費用分担請求で失敗しないための心得(前編)」では、婚姻費用のありかたについてご説明いたしました。後編では、 婚姻費用 や養育費における 算定表 の問題点をご説明いたします。
算定表は絶対?婚姻費用分担請求で失敗しないための心得(後編)
算定表の問題点
現在の算定表は、 2003年に判事を中心とする東京・大阪養育費等研究会が作成したものです。この算定表は婚姻費用や養育費に関わる長期化する話し合いを、専門知識がなくとも簡易に算定し迅速に解決することを目的としたものです。
しかし、この算定表を見て愕然とした人も多いのではないでしょうか。
例えば年収500万円のサラリーマンである夫、専業主婦の妻、1才の子供が一人という家族構成を算定表にあてはめてみると、妻が子供と一緒に暮らす場合、夫が支払う婚姻費用は8万から10万円となっています。
年収500万円であれば平均月給は手取りで30万程度です。別居しなければ家族3人で1か月30万円の生活費が使えたわけです。しかし、別居により1か月に使える生活費は、夫が20万から22万円、妻と子が二人で8万から10万円ということになります。
妻は、実家に帰る場合やローン完済した自宅に残る場合を除けば、当然家賃を婚姻費用から支払うことになります。家賃のほかに光熱費、税金や保険、二人分の食費、衣料費、通信費、消耗品、子にかかる教育費などのすべてを婚姻費用でまかなわなければなりません。
保育所がすぐにみつかり、明日からでも正社員として働けるという状況でもない限り生活はかなりきびしいものになります。仕事がみつかったとしても、子どもの世話があるので気の休まる時がありません。
逆に夫は別居したことにより、子供の面倒をみなくてもよくなり、一人で使えるお金も増えます。
別居の原因が夫にあったとしても、夫の生活レベルはあがり、妻子の生活レベルはおちることになります。算定表によって決められた婚姻費用では、とても同レベルの生活になるとは思えません。
「新しい算定表」の登場
日本弁護士連合会は現在の算定表の問題点をあげ「新しい算定表」を提案しています。新しい算定表は日本弁護士連合会のホームページで見ることができます。
新しい算定表では婚姻費用・養育費ともに夫が優遇されていた部分を見直し、新しい算定方式による金額を提示しています。新しい算定表では不平等さが軽減され、子を持つ妻の生活レベルと夫の生活レベルの格差が縮まるものと考えられています。
しかし、残念ながら現時点では新しい算定表をすすんでつかう弁護士や判事がほとんどいません。婚姻費用請求の調停において、調停員が新しい算定表を知らないことも少なくありません。
現在の算定表が定着しすぎているために新しい算定表をあえて使わない風潮がみられるのが実情です。
その一方で新しい算定表を広めるために奮闘している弁護士がいることも事実です。新しい算定表をつかった判例が増え、婚姻費用の不平等さがなくなる日も遠くないかもしれません。
適正な婚姻費用を知っているのは自分
現在の算定表は各家庭の事情を考慮せずに簡易に迅速に算定するためにつくられた「目安のひとつ」であり「算定表通りじゃないとダメ」という決まりはありません。
現在の算定表の婚姻費用で生活できないのであれば新しい算定表を使いたいと判事や調停員に提案してもよいのです。子が幼い家もあれば、受験生の家もあります。妻が健康でバリバリ働ける家もあれば、病気で働けない家もあります。
各家庭により事情はさまざまで、必要な生活費を一番よくわかっているのは家計を管理してきた妻です。夫と同じレベルの生活ができるだけの婚姻費用をどうどうと提示しましょう。
婚姻費用の問題は解決するまで心身ともに大きな負担をともないます。話し合いに疲れてしまったり、請求する自分が図々しい人間に思えてきたりして、投げ出してしまいたくなることもあるでしょう。
それでもあきらめないでください。提示した婚姻費用が適正であると認められれば、解決が早まり生活の不安も少なくなります。
現在の算定表だけにとらわれて苦しんでいるみなさんが、新しい可能性をみいだして笑顔で過ごせる日々を取り戻せるよう切に願います。
まとめ
算定表は絶対?婚姻費用分担請求で失敗しないための心得(後編)
算定表の問題点
「新しい算定表」の登場
適正な婚姻費用を知っているのは自分